KASHIWA印の有限会社猪熊製作所
新潟県燕市桜町230番地3

絞り加工油について

絞り加工を行ううえで欠かせないものが「油」です。絞り加工用の油についていろいろ書いてみました。

油の成分

 絞り加工においてその加工油は各社それぞれ独自のものです。当社もその例にもれず、長年の試行錯誤の結果手に入れた秘伝のタレとでもいうべき油を使って絞り加工を行っています。
 この当社独自の油によって、ステンレスの絞り加工でも金型材料の面で妥協することなくより硬い金型を使う=結果的に低コストで製品精度を長期にわたって安定させることを可能としています。
 まず、油の種類。植物系とか鉱物系とか、化学合成のものとか色々あり、どれを選ぶか???です。いろいろな油を単品で使うか、それともブレンドするか?(コーヒーのようです)ブレンドするならどのくらいの比率でやるか?
 さらに、ブレンドすることで必要な性能が得られたとしても、一晩おいたらまた分離してしまっていた・・・などということもあるので分離しないことを前提にブレンドを考える必要があり、奥が深い世界です。

なぜ油が必要なのか?

金型と材料だけでは、焼きついてしまいます。

 絞り加工とは、下図のように上型と下型の間に材料を挟みこみ、3次元的に上型に吸い込ませるような感じで直径分の素材を高さに変えていく複雑な加工です。
 材料が吸い込まれていく際に、金型(上型・下型・パンチ)の各部に摩擦が発生しますが、金型も材料のステンレスも金属、金属同士を強い力でこすりあわせれば、キズができて、カジリ(ガジリ)が発生してしまうことになります。
 そこで、この摩擦によるキズの発生を防ぐために油が必要なのです。

 

要は摩擦を軽減できればOKか?

話はそう簡単ではありません。

 折り曲げや切断といった加工に用いる油は、材料・金型の保護が主な役目と思いますが、絞り加工の場合はそれらに加えて、材料が吸い込まれていくタイミングをコントロールする役割も担っており、加工する速度や材料を保持する圧力などの要素と関係しながら、加工結果に影響を与えます。
 そして、ほとんどの油は温度によって粘度が変わる性質も持っているので、夏と冬で粘度はかなり変わります。恒温室でもあれば話は別ですが、零細町工場にそんなものあるはずがないので、季節に応じ最適な粘度・塗布量を調整する必要があります。
 上図3番目のように完全に絞りきってフランジ(ミミ)が残らない形状を例に考えると・・・(絞りきらずにフランジを残すような場合には残されるフランジ部の径の違いとなって現れると思います。

 

油の粘度

加工する速度・保持する圧力(シワ押さえ圧力)・材料に塗る加減の3つの要素が同じと仮定して、油の粘度のみを変えた場合、次のような傾向となります。

ハチミツを塗ろうとしたとき、低温状態と高温状態で塗りやすさが違うのと同じようなイメージです。

油膜の厚さ

加工する機械の設定(ストローク長さや速度・保持する圧力(シワ押さえ圧力)・油の粘度などの要素が同じと仮定して、材料に塗る油の厚さのみを変えて加工した場合、以下のような傾向になります。これは、絞り加工のページで説明しているような、1回目の絞り加工でミミが残らずに絞りきってしまうような絞り加工の場合に大きく影響してきます。

写真

後工程に行くほど最初の影響が大きくなっていきます。

1回目の絞り加工後の高さの違いは、さらに深くするために2回目の絞り加工を行う時にはフランジ部直径の違いとなって影響していくこととなります。

写真

自動車の運転で、降り始めは別として、小雨よりも土砂降りの時のほうが路面に水がたくさんたまっていてスリップしやすいのと同じようなイメージです。

油膜が厚いと・・・

金型との摩擦という観点では多いほど良いように思えますが、滑りのバランスの面で問題となります。

 

油膜の厚さだけでなく、シワ押さえ圧力が部分的に弱いのが原因の場合もありますが・・・

 


シワができたことに気づかず製品にしてしまった結果

油膜が薄いと?

金型との摩擦が増え、キズが入ったり、そうならないまでもその部分が上型に吸い込まれにくくなるためにミミがでたようになったりします。ミミが出た分の材料は反対側から引っ張られているために、程度によっては一部分だけ高さが足りなくなるような場合もあります。

 

油膜の均一性

油の種類と粘度と油膜の厚さ・・・それに加えて

油を均一に塗ることはとても重要で、材料の各部で油膜の厚さが違っていると、金型内での滑り具合(上型に吸い込まれる度合い)の違いとなり、これもまた周方向に高さが違うアンバランスな形状になってしまう原因となります。
このように、ただ油が塗ってあれば良いというものではなく多すぎても少なすぎてもいろいろな問題が発生する原因になるので、安定してなおかつ低コストで絞り加工を行うには油加減を適切に保つことがとても大切です。

他の要素(加工速度や加える圧力)も、もちろん大きく関係します

もちろんその他の条件も重要です。

油のことばかり書きましたが、加工の速度やシワ押さえ圧力も重要で、いくら油が適度に滑ってくれようとしてもそれ以上にガッチリ金型が材料を挟み込む力が強かったら上型にうまく吸い込まれません。


強すぎて割れて(切れて)しまった

 


弱すぎて全周にシワが寄ってしまった

 

このようにいろいろな要素がうまくかみあって初めて「良い絞り加工」が可能となります。

油もコスト削減のポイント

当社メイン商品である調味缶は絞り加工後、バフ研磨→電解研磨という2回の研磨工程を経ています。
 
・【絞り加工2回】⇒【荒磨き】⇒【電解研磨】
通常、製品に絞り加工油がギトギトと残っているとバフ研磨作業に支障をきたすので洗浄して油をおとしてやらなければなりません。

 

・【絞り加工2回】⇒【洗浄(油落とし)】⇒【荒磨き】⇒【電解研磨】
洗浄するということは、その分コストがかさみます。できることならば、絞り加工後は洗浄せずにそのまま研磨できる程度にしか油が残らないのが理想です。
 そうかといって絞り加工時に油が薄くては金型の焼きつきやキズの発生原因にもなるので、絞り加工時は十分にその役割を果たし、加工後は洗浄せずそのまま研磨できる。そんな油を追求することが、コスト削減のポイントにもなります。

 

そんな欲張りな油があるのか?

 ウチにあるんです。絞り加工の油は各社それぞれ独自のものです。当社もその例にもれず、長年の試行錯誤の結果つくりあげた秘伝の油を使って絞り加工を行っています。調味缶などはこの油で絞り加工後、そのまま研磨することでコスト削減を実現するとともに、ステンレスの絞り加工でも金型材料の面で妥協することなく、より硬い金型を使う=製品精度を長期にわたって安定させることを可能としています。
 ここまでお読みいただいて、よし!この油があればOKなんだな!となるかもしれませんが、そうもいかないのが絞り加工です。なぜなら、あくまでもこの油は「自社の金型、設備に合わせて」作った、という点を忘れてはいけません。油も大事だけど結局は金型と機械と油と、そしてそれを使う人とがうまくかみ合って低コスト・安定した精度の絞り加工が実現できる、ということになります。
 ある会社でとてもうまく絞り加工できる油があったとして、それだけを持ってきても満足のいく結果が得られるとは限りません。結局のところ、トライ&エラーでやっていくしかないのかもしれません。苦労したことしか身に付かないようです。

 

アナログ山盛り

 パソコンで管理できるものはとことんパソコンに頼っていますが、この絞り加工に関することだけはパソコンに入れて管理することが未だできません。
 毎回毎回現物を見ながらフィードバックの繰り返しでKASHIWA製品はつくられております。
 これだけコンピューターが浸透して世の中デジタル真っ盛りの時代に、当社の絞り加工はけっこうアナログ要素山盛りの加工なのです。

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・この記事は当社製品にまつわる技術的な話や、その関連について説明するための資料であり、加工を受注する目的のものではございません。

・絞り加工による製品製造などのお問い合わせは現在のところお受けしておりませんので、申し訳ございませんがご了承お願い致します。