


絞りの材料にまつわる話… その1
2008年夏のある日・・・
かねてよりのニッケル・鉄鉱石・原油など様々な商品の高騰を受け、ステンレス価格は上昇したまま高止まり状態であり、これに加えて景気の先行き不透明感の強さからか、製品の動きも依然として鈍いままです。
昔から燕市はテンレス製洋食器の一大産地であったため、市内にはステンレスをはじめ各種の鋼材屋さんがけっこうな件数あります。
製品の動きが鈍い=その材料(今回の場合はステンレス材)の動きも鈍るわけですが、材料屋さんの営業としてはそれでも売上をあげなければいけないので一応営業にきてくれます。しかし、実際どうにもならないものはどうにもならない、といった感じです。
売れることが分かっている製品があってそれを必要とする人がいれば、材料がどんなに高価でもそれを購入しますが、製品の動きが鈍くてどちらかというと在庫が積みあがり気味の現状、材料仕入れも当然ながら鈍るわけであり・・・ウチもまさか余計な材料を買えるほど余裕もないですし・・・ということで、最近は「新規開拓」とばかりに何件かの材料屋さんが営業にきてくれます、既存の材料屋さんからの仕入れですらさっぱりなので新規と言われても本当に「間に合ってます」状態です。
今日もまた
今日も新手の材料屋さんが訪ねてきてくださいました。どうせ「開拓」だろう・・・と丁重に断る術を考えながら適当に相手の話を聞いていると、どうも売り込みではない様子で、何の話かと思ったらステンレス材の加工に関する悩み相談(?)のような内容でした。
話によれば、以前は別の材料屋さんから仕入れていた材料を、今回はその彼のところから購入したらしく、加工したところ機械や金型は変わりないのに加工結果が思ったようにならず・・・要するに材料屋さんを変えたら加工がうまくいかなくなった→材料が悪いのではないか?というクレームを受けたが、これについて何か考えられる点はないでしょうか、といった感じの内容でした。
分かりやすく箇条書きにしてみると、
●お客さんの言い分は
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仕入先の材料屋は違えども
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規格でいうところのSUS●△■の材料で、板厚も同じものを注文した
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機械や金型は以前から同じものを使って加工(もちろん周辺設定なども同じハズ)
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それなのに加工結果が以前と同じにならない・・・
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これはきっと材料が悪いんじゃないか?材料屋さん、どうなってるんでしょう?
●逆に今日来た材料屋さんの言い分は
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そんなにおかしなルートからもってきた材料ではない
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規格からは外れていない材料なんだけど・・・
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それなのにお客さんからクレームをつけられてしまっているので困った。
困ったことだけど、それはありうる
材料屋さんはもちろん材料を売るのが仕事なので、加工することについてとなるとほとんどシロウト同然であり、加工者側からこんなクレームをつけられれば困るしかないのが普通です。
もしこんなクレームに対して的確なアドバイスができる営業だったら、その人はとっくの昔にその能力に見合う部署、たとえばクレーム処理課のようなところにに配属されていることでしょう。
話を元に戻すと、こういうクレームというのは十分にありうることです。しかし、ほとんどの原因は「マニュアルどおり」にしか物事を考えない加工者に問題があるんじゃないかと思います。
ウチもこういった類のトラブルは過去に幾度も経験しており、それにはもうこりごりしているので調味缶をはじめ各種の深絞り製品を製作するにあたり、材料の仕入れには特に気を使います。
転ばぬ先の
ウチで絞り加工に使う材料は、材料屋さんに問い合わせた時に「ミルシート」と呼ばれる材料の「成分証明書」のようなものを出してもらえる材料を買うようにしています。
安いものの場合、例えば「SUS304」など規格上の呼び名が同じであっても、ミルシートが出せなかったり、そこまでさかのぼっての追跡ができない場合がほとんどです(逆に言えば「だから安い」とも言えます)。
ミルシートを出してもらうことができ、材料屋さんに追跡してもらえる・・・ということは、それと引き換えに値段が少し高くなってしまいますが、しかし「もしも」の時にはその差額がアッと言う間に消えてしまうようなことになりますから「転ばぬ先の杖」でもないですが一種の保険と考えて一級品の材料を仕入れるように努力しています。
そうやって、まともな材料であれば「いつもどおりに」加工が進むので、いつもどおりの読みでコトが進むことになります。
値段の安さと引き換えに
ところが、少し安いからといってワケの分からない材料を買った場合、うまくいけば確かに材料が安い分だけ得した感じになりますが、コワイのは思ったようにならない(具体的には絞り加工した製品の渕にシワができるとか、加工途中で切れてしまうなど)時です。
いくら安い材料といっても、まさかタダではありません。なので、なんとか製品にしようとアレコレ努力することになってしまいます。
文章で「努力する」と書けば簡単に見えますが、絞りの場合はとくに加工が進むほど材料の良し悪しがどんどん影響してきます。進めば進むほどにトラブルに遭遇する確率が高くなるのに、進んだところでトラブルに見舞われて対処していると、仕事してるのか、ボランティアをやってるのか分からなくなってしまいます。それとは裏腹に「ここまでやったんだから何とか製品に」ということでさらに余計なコスト(手間や気苦労も含まれ・・・)をかけることになり、どんどんハマってしまいます。
そして、さらに最悪なシナリオとしては、最後の最後で「やっぱりどうにもならない!」と諦めて結局スクラップ(クズ)になってしまう場合です。ただでさえ高いステンレス材を製品にできずに捨てることになるわけですから、これはもう本当に最悪です。
鉄やステンレスなどのスクラップ市場が以前よりかなり高くなっているとはいえ、買った材料の価格のままで売れるわけがなく、仮に買った価格で処分できても、そこまで加工したコストはムダになってしまいます。
目先の安さと引き換えに大変な時間・労力を払わなければならなくなることは、絞り加工の世界だけではありません。安心して使える材料を買って安定した加工を進められれば、結果として低コストで品質の良い製品を作り続けられることにつながるのではないかと思いますが、しかし材料ばかりがどんなに良くても問題が起きないわけではありません。
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